アートと暮らす - Life with Art - profile no.2

部屋に点在する作品たちを眺めながら
昼寝するのが至福とのとき

清水 麻美子アートディレクター、デザイナー

山小屋の展示をいつも楽しみにしてくださっている、アートディレクターの清水麻美子さん。
そのご自宅は、色々なタイプのアート作品があるのに、全体の調和がとれ、美しくもリラックスできる空間です。
山小屋のメンバーは、「おお、こんな壁に、この作品を……」と訪れるたびにワクワク。
その影響を受けすぎて、自分の部屋もイエローにペンキ塗りしてしまうほど!
そんな麻美子さんに、作品との出会いや、日々の暮らしについて伺いました。


山小屋との出会いを教えてください。

恵比寿によくいくので通りがかりに覗かせていただいてました。そのうち恵比寿新聞のケンちゃんことタカハシケンジさんを通じて、山小屋を運営する新谷ファミリーを紹介していただき、お仕事で佐知子さんに大いに助けていただいたり、比佐さんのご飯を食べさせて頂いたり、川内有緒さんの著書の読者になったりと、山小屋及び新谷ファミリーのファンとなり今に至ります。

山小屋で買った作品はどんな作品ですか?どういうところに惹かれましたか?

最初に購入したのはアカサカヒロコさんの銅版画。細かいタッチで繊細に描いた波打つ透明なベールの壁の横を、雲のボートですすんでいく様子が横長い画角に描かれている夢幻的な作品です。寝室の壁がブルーなので軽やかな夢がみれるよう枕の上に浮かばせました。

ミヤギユカリさんのペインティングは、淡いピンクの空気の中にブルーとターコイズ色の影で山々の風景の描かれたやわらかくさわやかな作品です。仕事場は北側がよいと言われますが、少々暗いのでこの作品を作業台の上に飾っています。この風景を仕事の合間に時折見て、春先の山登りに思いを馳せながら粛々と仕事に励みます。

アートディレクター永井裕明さんの作品は、銀のシートに凸版でギュッと刻印された展示のタイトルロゴの上に、ピリッと破いたパーマセル(撮影の時に使う紙テープ)を、ペッと貼っただけ(失礼!)なのにスカっとカッコ良く、さすがのベテランADの力を感じました。「装丁外2」というブックデザインがメインの展示だったので我が家の積読コーナーの上に、たまたま同じ額を使っていた以前購入した作品と並べてみました。

コバヤシエツコさんの展示には最終日に伺ったのですが、すぐなくなってしまいそうな魅力を放った逸品なのに残ってくれていたこと、エツツさんが黒をベースに制作した初めての作品ということに出会いを感じました。人なのか動物なのか不思議な生きものが、ピシピシッと描かれる謎次元の空間に、入り込んでいるのか一体となっているのか。いろいろと想像を掻き立てられるイメージは見るたび発見があります。色はマットな黒に金の差し色で、我が家の黄色い壁にキュっと締まりを与えています。

いとう瞳さんの作品は出張山小屋、AQUASCUTUM WHITELABELin渋谷スクランブルスクエアで買わせていただきました。小さな作品ですが遠くにある船と深い海の黒が奥行きを感じさせ、色と構図のセンスが抜群です。これを買う少し前に装丁買いした単行本の表紙がいとうさんだったというのも運命を感じました。

その他、作品以外でもこだわりのハンカチ、一点物缶バッチ、作品集、など
作家さんの作品を最大限生かそうという山小屋さんの心意気が伝わるグッズの展開も楽しいのでついつい購入してしまいます。

その作品を見るとどんな気持ちになりますか? 家のなかでは、どんな存在ですか?

壁の広さやスペースの関係上大きいものが置けず小作品ばかりなので、チラチラと散らばる作品たちは強く主張するものではないのですが、ふっと目に入るとそれぞれの場所でいい仕事をしてくれている存在という感じがします。時折置き場所を変えたり、入れ替えたりすると空間も少し変わったように感じさせてくれます。

普段はどんなお仕事や活動をされていますか?

グラフィック、ウェブ、VIなどなどのデザイン業をしています。お受けする仕事以外に、自分でも作品とまで呼べるのかどうかわかりませんが好き勝手にいろいろ作っていて個展などをたまにしています。自分が作り手になると制作手順や準備など、どのような苦労があるのか分かってしまうので、つい応援の意味でも作品を買ってしまうということも多々あります(もちろん本当に欲しいと思ったものですが)。

普段からアート作品を買いますか?他に持っている作品や、集めているものについて教えてください。

ピピンときた作品と出会ったら購入します。収集癖はないのですが、いつのまにか増えてきて壁と置き場所がなくなってきました。どれもお気にいりですが2点ほど紹介します。

恵比寿のフレンドリーなオーナーさんでお馴染みのGalerie LIBRAIRIE6で購入した製本家、羽田野麻吏さんのオブジェ作品は、見た途端これは絶対に欲しい!と頭がソワソワしました。好きな画家であり詩人の古賀春江の『女のまはり』という詩が活字で箱型に組まれ、それを押し型で模様をつけた白い皮と染め紙で繊細に装飾され超絶緻密に作られた箱に閉じ込められている、これでもかと好きな世界が凝縮されていている作品です。

壁から小さな家が飛び出している木工作品は大学で教わっていた神山明先生の作品です。非常勤になってから先生の作品集をデザインさせていただいたのですが、作品集が完成したその年に急逝してしまい、遺作展で購入したものなので思い入れが深いです。学生当時から好きだった先生の作品を買えた喜びと、もう先生の作品は増えないのだな、という切なさが入り混じります。

一点ものの作品を買うということは、作家さんやギャラリーで話を聞いたり、その当時の気持ちや物語が刻まれやすいので、既製品を買うことと違う楽しさと嬉しさがあります。

あなたの好きなものをいくつか教えてください。
(好きな場所、活動、風景、映画、人、料理、本、など)

欠かせないものは美術館、音楽、本です。特にぼっち旅行と美術館の合わせ技、道中は音楽と読書が最高の組み合わせです。今年はダムタイプの新作公演とニューオープンの京セラ美術館を巡る京都旅行を計画していましたが公演が一週間前にキャンセルになってしまいました。

ライブと舞台も欠かせない好きなことですが、これまた良席を確保してあったセルゲイ・ポルーニンの舞台も飛んでしまいました。なかなか辛い年です。しかしながら先日は長年のファンである菊地成孔とペペトルメントアスカラールのライブをオンライン配信で見ました。ぺぺのライブを見るとなぜか創作のイメージが広がるのです。オンラインでもそれは感じられました。

今回取り組むエツツさんのオンライン展示でも、そんな気持ちが皆さんに伝わると良いですね。

何をしているときにリラックスしていると感じますか?

平日に美術館やギャラリーを巡るととても気分が良くなります。なぜか休日では得られない充足感があります。あと仕事の締め切りがない休日に、ピシャーっと掃除をしてきれいになった部屋に点在する作品たちをうつらうつら眺めながら昼寝するのが至福とのときです。最後に「Life with Art」につなげてみましたよ。でも本当にそう思います。

Profile

清水 麻美子アートディレクター、デザイナー

大学在学中よりグラフィックを主としたデザイン事務所を経て、ウェブの黎明期にデジタルエージェンシーに設立時より参加、のち2004年MaMeDesignとして独立。2010年、株式会社マミコ社設立。グラフィック、ウェブ・UI、VI、パッケージなど、様々なジャンルのコミュニケーションデザインを行う。
パーソナルワークとしてコラージュ技法を主とした作品制作や物語の記号化などを試みる映像などを制作、個展・グループ展などで発表。
東海大学教養学部芸術学科 非常勤講師。
https://www.mamico.co.jp/